数ページ読むまでに1万秒
入浴中に小説を読むのが習慣だ。文字を目で追う。読むことはできる。でも、それがなかなかイメージと結びつかない。全くできない訳ではないが、頭の中で映像にすることが難しい。だから、本を読む時、とても時間がかかる。数ページ読むのに1万秒ほどの時間をかける。読書など非効率的なのだから、やめたらいいのだ。何度そう思ったかわからない。でも、やめたらそこで終わりだ。もしかするとあと1文字読めば、何らかの可能性が拓けるかもしれない。あと1文字読んだ瞬間に僕の鈍重な脳みそが覚醒し、何か素晴らしい能力が生まれるかもしれない。そう思うとやめたくてもやめられない。
僕には何の才能もないのだ。才能がないことにはずっと前から気づいていた。でも、何かを求めたり、夢を追ったりしてみないと、もう人間としてダメなような気がして、中途半端に何かを追いかけようとしている。悪あがきだ。真剣に打ち込むのでなく、本当に中途半端なのだ。まずいと思う。でも、やる気がどうしても湧かないのだ。
やる気が湧かない理由は簡単だ。何もかも思うように行かないからだ。例えば、今僕は決算書の読み方を少し勉強中なのだが、1文字読むと、もう訳がわからなくなってしまってしまう。書かれている意味が1ミリもわからない。もう嫌になる。一応辞書を引いたり、ネットで検索してみたりするが、調べる時間が長すぎて、激しい目眩に襲われ、いつの間にか直立したまま体幹を軸として、腰から上がぐるぐると回っているのだ。わからない事を調べると更に訳がわからなくなり、調べたことを更に調べないといけない。結局、問題が決算書の読み方から離れ過ぎてしまって、何故か動画サイトにアクセスし、アニメソングを自動再生で聴いていた。
すると『サクラ大戦』の主題歌が流れてきた。僕はよく知らないのだが、学生時代に同じ寮に住んでいたキムという人が『サクラ大戦』が好きだと、キムの友人から聴いたことがある。キムは日本のアニメが好きらしかった。その時、僕は格闘ゲームばかりやっていた冴えない学生だったが、友人に勧められて珍しくギャルゲーというものを買ってみたのだった。するとキムはその噂を聞きつけて、僕の部屋を訪ねて来た。ドアがノックされ、開けると薄暗い寮の廊下にキムが立っていた。「やあ、T君」とキムはフレンドリーな笑みを作って挨拶をした。「買ったんだってね。是非、僕にも聴かせてくれないかな。そのゲームのオープニングソングを」そう言って、キムは僕の部屋の薄っぺらくなったカビ臭い万年床に嫌な顔一つせずに座り込み、ゲームのオープニングを初めから終わりまで何一つ漏れなく頭に刻み込もうとするかのように真剣に私語一つ発せずに見入っているのだった。終わるとまた初めから聴く。それを延々と熱心に続けるのだ。彼は勉強家だった。僕は決算書の見方そっちのけで、アニメソングを聴いているうちに『サクラ大戦』の主題歌に辿り着いた。そして、その主題歌はキムを想起させた。その歌はもはやキムの主題歌のようだった。僕はキムの熱心さが欲しいと思うのだった。わからないからと言って諦めてばかりいてはダメなのだ。

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僕には何の才能もないのだ。才能がないことにはずっと前から気づいていた。でも、何かを求めたり、夢を追ったりしてみないと、もう人間としてダメなような気がして、中途半端に何かを追いかけようとしている。悪あがきだ。真剣に打ち込むのでなく、本当に中途半端なのだ。まずいと思う。でも、やる気がどうしても湧かないのだ。
やる気が湧かない理由は簡単だ。何もかも思うように行かないからだ。例えば、今僕は決算書の読み方を少し勉強中なのだが、1文字読むと、もう訳がわからなくなってしまってしまう。書かれている意味が1ミリもわからない。もう嫌になる。一応辞書を引いたり、ネットで検索してみたりするが、調べる時間が長すぎて、激しい目眩に襲われ、いつの間にか直立したまま体幹を軸として、腰から上がぐるぐると回っているのだ。わからない事を調べると更に訳がわからなくなり、調べたことを更に調べないといけない。結局、問題が決算書の読み方から離れ過ぎてしまって、何故か動画サイトにアクセスし、アニメソングを自動再生で聴いていた。
すると『サクラ大戦』の主題歌が流れてきた。僕はよく知らないのだが、学生時代に同じ寮に住んでいたキムという人が『サクラ大戦』が好きだと、キムの友人から聴いたことがある。キムは日本のアニメが好きらしかった。その時、僕は格闘ゲームばかりやっていた冴えない学生だったが、友人に勧められて珍しくギャルゲーというものを買ってみたのだった。するとキムはその噂を聞きつけて、僕の部屋を訪ねて来た。ドアがノックされ、開けると薄暗い寮の廊下にキムが立っていた。「やあ、T君」とキムはフレンドリーな笑みを作って挨拶をした。「買ったんだってね。是非、僕にも聴かせてくれないかな。そのゲームのオープニングソングを」そう言って、キムは僕の部屋の薄っぺらくなったカビ臭い万年床に嫌な顔一つせずに座り込み、ゲームのオープニングを初めから終わりまで何一つ漏れなく頭に刻み込もうとするかのように真剣に私語一つ発せずに見入っているのだった。終わるとまた初めから聴く。それを延々と熱心に続けるのだ。彼は勉強家だった。僕は決算書の見方そっちのけで、アニメソングを聴いているうちに『サクラ大戦』の主題歌に辿り着いた。そして、その主題歌はキムを想起させた。その歌はもはやキムの主題歌のようだった。僕はキムの熱心さが欲しいと思うのだった。わからないからと言って諦めてばかりいてはダメなのだ。
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