ゴボウとフリカケ

 その男は何故か玄関ではなく、ベランダに立っていた。一体どうやってベランダに入り込んだのだろう。ここは2階だから柵を超えて入ったという単純なものではない。排水管を上ってきたのだろうか。しかし、そんな疑問はすぐに消えた。
 初め、その男が立っていることには気づかなかったのだ。部屋のチャイムが鳴ったのか鳴らなかったのかは覚えていない。けれども、何者かの来訪を悟ったことは確かだ。そして、何故か玄関でなく、ベランダの窓を開けたのだった。

「ごぼう、ごぼう」

 僕はそう呟きながら、ごぼうを探した。ベランダには洗濯物が隙間なく干されていた。物干しの竿から、ベランダのコンクリートの地面まで着くような長い洗濯物が。タオルか何かだと思う。普段はそんなタオルなど使わないし、そもそも持ってもいないのに、なぜか干してある。しかも地面に着いてしまっているのに、そんなことなど一切気にしない風にすべての洗濯物が干されてしまっている。そして、僕も何も気にすることなく、何かの棒切れを掴んで、コンクリートに接地した洗濯物をかき分けているのだ。「ごぼう、ごぼう」と言いながら。かき分けていると確かにゴボウが一本現れた。それと野沢菜のふりかけも置かれている。やった、あったと思っているとどこかから声がする。

 上に視線を移すと、約2mの高さに設置された物干し竿よりも高い位置に顔があった。それは誰もが見たことのある郵便局員のヘルメットを被り、制服を着た男だった。男は洗濯物の陰に立っていたのだ。身長は230cm以上はあるが、随分細身で、顔は死人のように青白かった。郵便局員は僕を見下ろしながら、洗濯物の向こうから配送料金を請求してきた。

「145,000円です」

「ああ、はいはい、14万5千円ね・・・14万・・・は?14万だと?」

 財布の中には何故か15万円ほどの紙幣があった。見てはいないが、あることを知っていた。だが、いくらなんでも、ごぼうと野沢菜のふりかけだけで14万5千円も払える訳がなかった。

「あの、ごぼうとふりかけは引き取って頂いて結構ですので、お帰りください」

 そういうと郵便局員は顔色一つ変えず、死人のような顔で「それは困るんですがね」と言う。こっちだって困る。しかし、郵便局員は二度目に帰れと言ったのを聞き入れて帰って行った。その時、郵便局員は「次来たら払ってもらう」というような事を言っていた。ベランダから帰って行く姿は見えなかった。14万5千円のことで頭がいっぱいでそれどころではなかったのだ。

「ごぼうとふりかけだけで14万5千円を払えと言われたんだ」と妻に相談していた。「次来た時は払わないといけないのかもしれない。しかし、とてつもなく細く、背の高い男だったな」

 手元に14万5千円以上あったが、素直に払わなくてよかった。いや、払っても払わなくてもどちらでもよかったのだ。けれども、騙されなかった、しっかり断ったという誇りのようなものを持って、僕は目覚めることができたから、やはり、払わなくてよかったと思う。
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