壁に空いた穴

 職場に飾ってあった生け花に手が引っ掛かり、花がぽっきりと折れてしまった。誰も見ていなかった。そのまま黙っていても、誰にも僕がやったとはわかるまい。バレなければ黙っていても問題なかろう。バレるはずがない。その場にいたのは僕だけだった。いつから折れていたかも誰にもわからない。仔細に観察している人間などいない。その作品を作った人以外にはその変化には気づくまい。気付いたとしても、ああ誰かが触ったのかな、袖が引っかかったりしたんだな、ちょうど引っかかりそうな位置だからなあ、と思うだけであろう。僕は出勤してきた同僚に「すみません、玄関に飾ってあるお花を折ってしまいました」となぜか最速で告白していたのだった。

 大学時代にもこのような事があった。住んでいた寮の壁に悪ふざけをしていて穴を開けたのだ。放っておいたら、寮のおじさんが掲示板に「穴を開けた者は名乗り出る事」と書いていた。僕は友人たちに「絶対に言うんじゃねえぞ、いいな!」と釘を刺しておいた。僕はむずむずしながら食堂に行き、おばちゃんを呼び出し、「穴を開けたのは僕です」と真ん丸な目で言っていたのだった。後日、薄っぺらな寮の壁に空いた穴は何かの張り紙によって隠されていた。弁償しろとは言われなかった。僕は弁償させられることを怖れていた。貧乏な学生に修理費用など工面できるはずがないのだから。あの穴は補修されたのだろうか。

 しかしなぜすぐに喋ってしまったのか。気が小さいからだろう。別に僕は正直者ではない。姑息な人間なのだから。
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