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月夜

 駅から出て歩いている間にも、月はじっと僕の背中を見ていた。フィリピン人やマレーシア人の働く多国籍のショーパブの建物を過ぎて、信号待ちをしている時になって右手の方を見上げてみると、大きな月が地上を明るく照らしていることにようやく気付いた。いや正確に言うと、右手上方から何かが地上を照らしていることに気付いて、そちらを見たら、その光源が月だったのだ。
 赤信号であるうちは月に見入っていた。信号が変わると前方と月とを交互に見やりながら不安定に歩き進んだ。どちらにも注意しているようで、実は何も見えていない。目の前に大きな穴があったら確実に落ちて、そのまま工事業者が気付かずに舗装してしまうかもしれない。これはどこかの国の出来事だ。もしも照らすものが月以外にない闇の下では十分あり得るように思えた。

 何も疑問に思わないうちは幸せなのかもしれないし、過剰に疑いを持った時は不幸せなのかもしれない。またはその逆であるかもしれない。極めて白色に近い、ほとんど白色であると言ってよいほどの黄色または黄金色いや銀色かもしれない月の光は、ベートーヴェンの月光よりも、ドビュッシーの『月の光』の旋律を脳裏に呼び起こした。どちらの曲もどういった経緯で作られた曲かは全く知らない。ドビュッシーの音色はとても美しかった。ドビュッシーの美しさがその月にぴったりな気がした。数分も経たないうちに月をいわし雲の薄いベールが覆っていった。

 もう9月も終わろうとしている。そのうち、どこかからキンモクセイの憂鬱な香りが匂ってきそうだ。空気が次第に冷え冷えとしてきた。特に夜などは気付けば震えている。猫も布団で寝ることが増えてきた。秋も深まりつつある、未だに夏の名残りの暑気を漂わせてはいるが。しかし夜などは特に秋だ。秋としか言いようのない秋。いずれ四季の中でも一番弱弱しいような気さえする秋も去ることだろう。生命が次第に消えていく心寂しい秋が過ぎると、冬が来る。冬は寒さの中に孤立した生命をより強く感じられることだろう。さまざまな生命が光を放ち、温かに輝いている。強い輝きで突き進んで行こうとする生命の光線が、冬の先の先まで伸びようとしている。その先の新しい生命の芽吹く春、より濃い生命の息づく夏、生命の去る秋、生き残った強い光の冬、一体いつまで自分の生命の光線は伸びているのだろうか。一体いつまでグズグズと生きながらえるつもりだろうか。
 つい最近「8月がどこかへ行ってしまった」と言ったばかりなのに。9月までもが一瞬で走り去る。自分が何をやっていたのかよく覚えていない。何も達成することなくまた一月が過ぎてしまう。もやもやとした光線が歪んだ空間を弱々しく、いつ途絶えるともなく伸びて行く。

 一体僕は何をやっていたのだろう。もうこれは僕の口癖のようになりつつある。進展はないのか。昨年の僕の予定では現在の僕はより大きく膨らんだ満ち足りたものであるはずだったが、逆に萎み縮んでしまっている。これは一体どういうことだ?
 唯一の進展は『ゴッホの手紙』でやっとゴーガンがゴッホの元にやって来たことだ。しかしゴーガンはすぐに去ってしまったし、ゴッホは監視人付の独房にぶち込まれてしまった。人生はうまく行かない。いいようになれば、いいようになっているはずなのに、いいようにならないのだ。

 明日は夜勤だ。いつか、こんな仕事辞めてやりたい。でも、僕はこれが死ぬまで続くような気がする。暇であればあるほど、死ぬまで現状が続いてゆくのだと考え続けて、狂いそうになるから、何も考えないように体を動かしたり、月を見て美しいと思ったりするのだ。
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