僕は粉微塵になって消えた

 妻は発熱があり、体がキツいと言っている。僕は職場にいて、仕事が終わるのは明日の朝だ。ダメだ。こんなことをしていては。必ず仕事を辞めて家にいなければならない。

 平日9:00-15:00の休憩1時間という体に負担のない仕事をして、妻が病気の時は看病し、僕が病気の時は寝たきりになり、昼食はカップ麺という質素な食事を摂り、日照りの時は猫草を植え、寒さの夏などありはしないので羨んで、みんなにニートと呼ばれ、バカにされたら腹を立てるが、苦にもされず、そういう者に僕はなりたいと常々思う。別に妻の看病を口実にして楽したい訳じゃない。元々仕事などしたくはないのだ。何もせずともお金が流星のように僕の頭上に降り注ぎ、生活できるのであれば、僕は仕事などしない。すると妻の看病も出来るし、猫と過ごす時間も増えるからとても嬉しい。

 こういう甘いことを言っているから、いつもシケてばかりなのだと薄々勘付いてもいる。だが遺伝子レベルの逃避行を誰が止められよう。自然と逃げ腰になっているのだ。

 今、目の前に一冊の本が置いてある。仕事には関係のない本だ。いや、これは哲学の本だから、関係ないとも言えない。大いに関係があるかもしれない。この一冊の本を今日は仕事の隙間時間に読もうと思っているのだ(仕事する気ねえな・・・)。僕の秒速1文字という自分の中ではベストの読書スピードで挑むのだ。あの『猟人日記』をも読破した読書法である。

 ああ、クソ!僕は劣等感の塊だ。今日はまた死にたくなった。死にたくはないが、そういう表現を使いたいくらい自分が情けなくて、恥ずかしい気がした。友人の知り合いは速読が出来るらしい。それを聞いただけで僕はコンプレックスに圧迫され、一つのビー玉ほどの大きさにまで一瞬で圧縮された反動で大爆発し、粉微塵になって消えんばかりだったのだ。僕にしてみたら、友人もかなり読むスピードが速いのだ。その友人が速いと言っているくらいだから、おそらく1万ページを数秒で読むという僕の理想的な能力に匹敵するか、もしくはそれに近いスピードと精度とパワーを持っているに違いないのだ。僕は嫉妬に荒れ狂っているのだ(僕は些細なことで嫉妬する)。
 そして、僕は一冊の本を目の前にして眩暈がしている。この眩暈の仕草を、誰もいない職場で実践するしかなかった。直立し、背筋を伸ばした気をつけの正しい姿勢で、上半身をグルグルと回し始めた。
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