豊穣を祈って

 夜勤明け。家路を急ぐ。電車内で、うとうとし、しかし最寄駅を乗り過ごさないように注意しながら、車内アナウンスが流れる度に目を開けた。乗り過ごした事が一度だけある。まだ、東京に勤めていた頃、乗換駅を寝過ごして、九品仏という駅で下車した覚えがある。駅名だけが印象深く、駅の印象は薄く、構内はただただ暗いだけだった。折り返しの電車をまた逃さないように、心身ともに疲弊した状態で、待っていたので、何も気がつかなかった。
 最寄駅到着。ホームをふらつきながら歩いた。危ない気がした。できるだけホームの真ん中を歩いた。足取り重く、赤信号に足止めされて、横断歩道の縞模様を睡眠不足の眼で睨んだ。

 玄関、ドアを開けると、鈴の音。天の鈴が主を迎え、次いでキュキュッという風に戸の向こう側から声が聴こえる。職場で染みついた臭いと、ストレスで立ちのぼる体臭をシャワーで洗い流した。
 天に邪魔されながら、コンビニで無駄遣いして買ってきた弁当を頬張った。おいしくない。おいしくないが、食べなければならないといった調子で、次々に口の中へと運び込む。食事は作業と化した。
 重い眼で、TVに映る録画していたアニメを見やった。見やる彼方に映えるは何か。結局、何も見えていない。見えないものを見、聴こえぬものに耳を傾け、と理想像を思い描き、現実には何も見えず、何も聞こえぬ自分があった。
 ベッドにどかりと倒れ込み、もう何にも干渉しない体で眠りこけた。

 妻は友人とワールドカップのパブリックビューイングに出かけて行ったらしい。僕はワールドカップなどどうだってよかった。何より自分が眠ることを考えた。仕事中も眠ることだけ考えていた。

 日本の敗退を知ったのはニュースでもなく、妻の話でもなく、ただ偶然見ていた2chのまとめサイトからの情報だった。そうか、負けたのか。

 そして、シブヤ。

 そう、シブヤ。

 シブヤは人で溢れかえったそうだ。ワールドカップのお祭りだ。日本を応援する人々が、日本の敗退に大騒ぎしたそうだ。世界のどこかでお祭り騒ぎ、世界のどこかで人は寝る。僕は寝る方を選んだ。コートジボワール戦はどこのテレビ局で放送されuたのだろう?夜勤明けでなければ、僕も少しは見たかもしれない。いや、本当は休日であっても観なかっただろう。

 父からのメール。先日送ったウナギが届いたらしい。今日は父の日だ。ウナギはおいしかったろうか?
 実家では田植えも終わったらしい。稲穂の育つまで、無事に月日が流れてほしい。豊穣の秋が迎えられますように、と僕は今日涼しい夜空に向かって、祈ってみた。どうか、どうか、努力が実りますように。何もできない僕は、祈ることしかできなかった。
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