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この道まっすぐ、白い空

「空が白くて怖い。あの青い空はどこへ行ったの?」

 なんでだろう。空が白い。空は青いものだと思っていたのに。そのうち、僕らは「外」とか「空」とか、そういった言葉を失ってしまうのではないだろうか。外を歩くこともできず、閉じ込められてしまう。それはそれで自業自得だけど、外を歩く動物たちがかわいそうだ。

 朝から気分が優れない。起きてみると、自分というものが酷く小さなものに思えて仕方なかった。周りの物が色あせて見えた。楽しいことが、いつもよりも楽しくないもののように思えてしまい、積み上げていた本が崩れて、頭上に堕ちてきた。

 太陽の光を浴びるため外に出ようと思った。服を着るのだが、どんな格好をしても、おかしな人のようにしか見えなかった。自分がその辺りを歩いてはいけないような気になって来た。どこかに閉じ込められて過ごすのが一番いいのかもしれない、と非常にネガティブな気持ちになっていたが、なんとか服装を整えて、外に出た。TSUTAYAで借りていたDVDを返しておかないといけなかったし、彼女にハガキを出すようにと頼まれていたのだ。

 僕は肩を丸めて、部屋を出た。修正不能なまでの猫背で、まるで覇気というものがない。道の途中で、前期高齢者と思われる女性たち3人に声を掛けられた。何かを言っているが、何も聞こえない。僕はイヤホンから流れる音楽を停止して、何を言われたか、聞き直した。とある食堂の場所を訊かれているのだった。僕は「この道まっすぐ」とその方向に手を差し伸べた。女性たちは食堂に向かって行った。あの食堂の前をよく通るけれど、おいしいのだろうか。

 食堂というと、僕は大学時代に下宿していた寮のあの『食堂』のことを思い出す。寮のおばちゃんが食事を作る、あの不衛生な食堂のことである。温蔵庫と言われる、それまでの人生で見たこともなかった物を温めておくものの中には、衣が剥がれ落ちかけたとんかつが納められていた。それは完全に酸化した質の悪い油で揚げられたようなもので、肉は噛み切れないほど硬かった。炊飯器の中には四六時中保温され、黄色く変色したご飯が入っていた。提供されるもやしのスープは、具のもやしにスープではなく、よく髪の毛が絡みついていた。その大量のスープのことを誰かが「もやしのでかまる」と訳のわからない名前で呼んで、苦痛の表情で食べていた。ざるそばには変な毛髪が混入しており、それが嫌でご飯に切り替えると、そこにも縮れた毛が混入しているのだった。「ふざけんなよ」と誰かが言ったのを思い出す。壁を例の黒光りする生物が這っているのを見て、身震いした。

「どら飯だよ」

「どら」というのは怠惰とか放蕩などの意味があるから、この場合の「どら飯」というのは、手抜き飯というか、いや、
まあつまりは「クソまじい」飯というような意味だったろうか。僕にはあまり意味が掴みきれないが、褒めて言う言葉ではないことはわかっている。つい口からそういう言葉が出てきていた。だが、それほど大きな声で言った訳ではない。テーブル上のヒソヒソ話程度である。にも拘わらず・・・

「誰!?どら飯って言ったの?どうしてそういうこと言うの?」

 今にもRPGのラスボスの音楽が流れ、戦闘シーンに突入しそうな一触即発のおばちゃんが、暗いキッチンの奥の方から、凄まじい速度で突進するように歩いて来たのだった。どこにアンテナを張っているかわからない。相当な地獄耳である。

「どら飯?なんですか、それは?俺たちはドラクエの話をしていたんですよ」

 まあ、そんな下手な言い訳でその場を乗り切った寮生たちだった。食堂のマカナイはよくみんなの話題になっていた。僕は寮のまかないを最初の3か月ほどで辞めたから、その後のことは体験していないけれど、友人も立て続けにやめていった。僕がマカナイを辞める時、おばちゃんに「T君、他の人にマカナイを辞めようなんて言わないでね!」と釘を刺されたが、僕が他人に奨めなくても、他の人たちは自ら進んで辞めて行ったのだった。

 「食堂」それはある意味ホラーな響きであり、近寄り難い雰囲気を持っている。僕は3人の前期高齢者たちが、髪の毛の絡みつく地獄のもやしスープや、娑婆における唯一の変色した臭い飯を提供するあの「食堂」へと向かって歩いていくようなイメージでいっぱいになり、道案内したことすら後悔し始めるのだった。僕は地獄の案内人。いや、思い込み過ぎだということはわかっているが、何よりも、僕自身が今日、自己嫌悪に陥っているのだった。

 久しぶりに僕は精神の不調により、トランキライザーを服用したのだった。頭の中がぐちゃぐちゃになっていくような気がして、耐えられない。頭の中が泥沼亀之助だ。こんなの耐えることなどできない。この発作的な混乱は時折、僕のところへとやってくる。日暮れ時の憂鬱とぶつかって、もう滅茶苦茶だ。ああ、嫌だ。嫌なんだよ、こんなの。

 結婚したというのに、こんなんじゃダメだ。

 16時半までは僕の自由時間だ。そのあとは夕食作りをして、仕事から帰ってくる彼女を待つのだ。そう決めて、僕は今、自分に与えた一人の自由な時間を必死で楽しもうと思っている。しかし、気分が一向によくならない。部屋の中をウロウロと歩きまわる。ドストエフスキーの小説にありがちな行動だ。登場人物がとにかく部屋の中を、物思いに耽ってウロウロする。想像していたら、酷く埃っぽいような気がしてきて、喉が痛い。目がまわる。

 時計の短針は躊躇うことなく、進み続ける。焦燥感。ううああうああ。冷静にならなければいけないとわかっているが、意識すれば意識するほど僕は混乱する。混乱のスパイラルに僕はグルグルと引きずり込まれ、無数のナイフに刺されながら、暗い暗い闇の中へと落ち込んでいくようだ。

 この症状はベッドのせいだ。質の良い睡眠に就けていないと、健康を害する。友人に言わせると、ベッドと枕を変えることで、睡眠の質が格段に向上するとのことだった。実は今の睡眠事情はかなり低水準だと言わざるを得ない。シングルベッドに二人で寝る、という非常に窮屈な状態なのだ。寝返りさえ満足に打てない。顔に痛みを感じ、目覚めると、彼女に2,3発殴られ、ベッドから落とされそうになっていたりする。肩こりや体の痛みはないのだが、このネガティブな思考はおそらく睡眠の質の悪さから来るのだろう。

 それにしても本当に空が白い。でも、誰も恐怖の表情一つ見せずに、外を歩いている。見えることには限りがあるけれど、よく見えないものはとても怖い。僕は空の白さが怖い。いつもと違う空だから怖い。本当の空はどこへ行ってしまったのだろう。これはきっと地獄の空。
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