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僕の時代

 外では選挙の街宣カーが大声をあげている。

「市民の味方!」
「みなさんの生活を守りたい!」
「清き一票を!」

 何が清き一票だ。立候補者やその関係者の中には、ある輩に選挙案内のハガキを盗ませて、投票に行かせている者がいるに違いない。実際に僕は前回の選挙のハガキは届かなかった。盗まれたんだ。きっと、盗まれて、どこかの他人が「たびびと」として、投票に行ったに違いない。窃盗を行った上に、不当な投票をさせる。何が清き一票だ。汚い手を使ってでも、貫きたい信念があるというのか。僕は街宣カーの響きを呪詛の念で突き返した。

 ああ、萎える。夜勤の日だ。もう昼か。仕事のことを考えると精神的なインポテンツに陥り、何も手につかなくなってしまう。しかも夜勤なんていう午後からの勤務帯のせいで、それまでのフリーな時間をこれっぽっちの快楽も得られずに過ごすのだ。だから、せめて休日は、なるべく、仕事のことは忘れて、どこかへ出かけるか、家事を一心に行うしかないのだ。

 日本の若い青年たちに疫病のように蔓延している精神的なインポテンツ、こうした表現は大江健三郎『われらの時代』からの引用である(たぶん正確な引用ではない。その言葉のページがすぐに見つからずにいるから確認できない。いや、もしかすると作品自体が違うかもしれない・・・)。大江健三郎氏の文章、作品は難解だという評判をよく見聞きするけれど(まず僕の母親が難しい、と言っていた)、確かに難しいと思うけれど、面白いと思える部分も多々あって、僕は割とこの老年の丸メガネの作家の文章を気に入っているのだ。時間をかけて(どうしても時間がかかってしまうのだが)、僕はゆっくりとこの大作家の文章を咀嚼してゆく。しかし、胃腸が弱いために、消化不良を起こし、熱まで出して寝込むのだ。

 今すぐにでも、職場に電話をかけて、こう言いたい。

「(大江健三郎を読んでいたら)熱が出たので休みます」

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