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壁に空いた穴

 職場に飾ってあった生け花に手が引っ掛かり、花がぽっきりと折れてしまった。誰も見ていなかった。そのまま黙っていても、誰にも僕がやったとはわかるまい。バレなければ黙っていても問題なかろう。バレるはずがない。その場にいたのは僕だけだった。いつから折れていたかも誰にもわからない。仔細に観察している人間などいない。その作品を作った人以外にはその変化には気づくまい。気付いたとしても、ああ誰かが触ったのかな、袖が引っかかったりしたんだな、ちょうど引っかかりそうな位置だからなあ、と思うだけであろう。僕は出勤してきた同僚に「すみません、玄関に飾ってあるお花を折ってしまいました」となぜか最速で告白していたのだった。

 大学時代にもこのような事があった。住んでいた寮の壁に悪ふざけをしていて穴を開けたのだ。放っておいたら、寮のおじさんが掲示板に「穴を開けた者は名乗り出る事」と書いていた。僕は友人たちに「絶対に言うんじゃねえぞ、いいな!」と釘を刺しておいた。僕はむずむずしながら食堂に行き、おばちゃんを呼び出し、「穴を開けたのは僕です」と真ん丸な目で言っていたのだった。後日、薄っぺらな寮の壁に空いた穴は何かの張り紙によって隠されていた。弁償しろとは言われなかった。僕は弁償させられることを怖れていた。貧乏な学生に修理費用など工面できるはずがないのだから。あの穴は補修されたのだろうか。

 しかしなぜすぐに喋ってしまったのか。気が小さいからだろう。別に僕は正直者ではない。姑息な人間なのだから。

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沈黙の舞台

 最近よく昔の事を思い出して赤面してしまう。

 小学生の頃、ある舞台を演じることになった。僕はある程度セリフの多い役を与えられた。練習は何度もしていた。セリフを完璧に覚え、練習でも間違えることはなかった。でも、本番の僕のセリフの番になって、1分間ほど沈黙してしまったのだ。それは1分ではなかったかもしれない。10秒とか、もしかすると5分近く黙っていたのかもしれない。とにかく5億年に限りなく近いのではないかというほどの長い沈黙だったと思う。
 なぜ沈黙してしまったのかというと、その時に言うはずだったセリフを少し前の場面で言ってしまったような気がしたからだ。それでも言ってしまえばよかったのに、さっき言ったセリフをまた言うのもおかしなものだと考え込んでしまったのだ。そして小声で他の役を演じている同級生に「さっき言ってしまったかもしれない」というような事を、酷くばつの悪そうな表情で訴えて、結局沈黙の後にそこで言うはずのセリフを言うのだった。当然だ。そのセリフ以外に何を言えばいいというのだ?

 中学2年生になって、所属していた卓球部に当時あの舞台を鑑賞していた後輩が入部してきて、「T先輩、あの時沈黙してましたよね」とニヤニヤして言うのだった。その時僕がどういうリアクションをとったのか覚えていない。笑って誤魔化したのかもしれないし、発狂して真っ赤になり、後輩の首を絞めたかもしれない。ただ、当時のことを蒸し返されたという記憶を今思い出して、さらに恥ずかしさが増すのだった。その後輩は悪いやつではなかった。むしろ、なかなかできた人間で、おそらく母親思いのいいやつで、頭脳明晰、ユーモアのあるエロ野郎だった。ただ、恥ずべきことを蒸し返されたという記憶がそいつを一瞬でクソ野郎にしてしまうのだった(しつこく言うけど、決してクソ野郎ではなく、結構仲がよかった、あえて、そう敢えてクソ野郎設定にしてみたのだ。考えてみたまえ、その後輩は別に何も悪いことは言っていないのだ)。

 僕はそれ(沈黙の舞台)以来、どうも頭の中に除去できないしこりのようなものが出来てしまった。最近、何かにつけて、当時の事を思い出し、どうにかなりそうなのだ。その思い出が、何をやってもうまくいかない性質を生み出しているように勝手に思いこんでいる節がある。考えれば考えるほど頭が狂いそうになる。舞台上の沈黙以来、僕はおかしくなってしまった。いや、どこでおかしくなったのか本当は定かではないのだが、今はそんな気がするだけだ。僕は暇さえあれば言い訳を考えているのだが、今日たまたま思いついた言い訳が『沈黙の舞台』であったのだ。

 本当はこんなことを書こうと思っていたのではない。昼間、何かを書こうと閃いた気がしたが、もう忘れてしまった。

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沼津ホテルに行こう

 末多とまともに話したのは、下宿していた学生寮の僕と体面に位置する部屋に住んでいた耶麻田が死んだのではないかという疑いをきっかけとした。僕が部屋を出ると末多が耶麻田の部屋の前に立っていた。
 「耶麻田君、最近見ないね」と僕が声を掛けると「まさか死んでないよね」と末多が穏やかでないことを言った。2、3日ほど耶麻田は姿を見せなくなっていた。末多は入寮後、耶麻田とゲームをするなどして親しくしていた。趣味が似通っており、話しが合ったので意気投合したのだった。親友になるかもしれない耶麻田が突然姿を消したことで少なからず動揺していたのだろう。まともと言えるかは怪しいが、これが僕たちの最初の印象的な会話だった。

 寮のおばちゃんに事情を説明し、僕たちは合鍵を使って耶麻田の部屋を開けた。家具調度品はそのままに耶麻田だけが姿を消していた。ガス台には洗われていない鍋、調理後の食物残滓が底にこびりついたまま乾燥したステンレス製の鍋が放置されていた。彼は残滓を置いてけぼりにして、入学後間もなく、まだシラバスと睨めっこすることなく、履修登録も済まないうちに消えてしまった。そして、耶麻田は二度と戻って来なかった。

 おばちゃんが確認をとったところ、耶麻田は生きていて、現在は沼津ホテルに引きこもってしまっているということだった。この出来事をきっかけにして、僕と末多の交友関係が始まった。この友情を築くために耶麻田はスケープゴートの役割を担う形となってしまった気になって心が痛んだ。本来なら、今頃末多と耶麻田は永劫の友情を築いていたのではなかろうかと。
 しかし、耶麻田は一体どうしていなくなってしまったのか。デリカシーに欠けるおばちゃんの話によると「彼はね、ほんの小さなことを気にする性格だったのよ」ということだった。失踪の理由は判然としない。僕には確かめ様がないのだ。とにかく耶麻田は繊細だったのだ。

 僕は入寮後間もない耶麻田から部屋の〈鍵のかけ方〉を教えてもらったことを覚えている。その部屋のドアは鍵を鍵穴に挿すのは開ける時だけで、施錠する際は内側のボタンを押してドアを閉めるタイプのものだった。施錠の方法すらわからない無知な僕だったが、実は鍵のかけ方を聞くことを口実に、耶麻田とコミュニケーションをとり、それをきっかけとし交友関係を深めようと目論んだのだった。しかし、それはただ教えてもらうだけに留まった。会話はすぐに潰えた。僕は話下手だったし、容姿と態度もいけなかったのだろう。坊主頭で金髪、眉毛は抜いて細く整えていた。末多によれば「ガタイがよくて、金髪で見た目は怖かった」ということなのだ。耶麻田は怖がってしまったのではないか。耶麻田の方もそれ以上喋ろうとしなかった。
 入学前の段階で入寮した1年生たちの何らかの集まりがあったのだが、僕と隣りの部屋に入った白河の2人が呼ばれなかった。だから未だに僕の中では「何らかの集まり」であり、彼ら新入生たちの間では顔合わせということになっているのかもしれない。もう今となってはどうだっていい。末多がネタにしてたまに笑っているくらいの話だ。
 人見知りで、ぶっきら棒な態度のせいで、怖い人と思われたのか。もしかすると耶麻田の失踪理由は対面する部屋の住人が”見るからに粗暴そうな男”だったからかもしれない。僕は今でもそれを気にしている。自分の容姿や態度のせいで、一学生の人生を大きく脇道に逸らさせてしまったのではないかと勝手に不安になってみたりするのだ。僕のせいでなければいいのだが、と切に思う。

 耶麻田、彼は今でも沼津ホテルに引きこもっているのだろうか?耶麻田に関しては、あれから時が止まったままのだ。僕らは救出に行くべきだったのだろうか。「耶麻田君、最近見ないね」と僕が声を掛けると「まさか死んでないよね」と末多が穏やかでないことを言った。そして僕は「沼津ホテルに行こう!」と言うべきだったのかもしれない(なんで居場所を知ってるんだよ)。

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こんにちは、たびびとです。
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介護職員のバイトをしています。
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