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頭骨

 彼はオシャレな洋服店に入ると、暑くもないのに額にびっしょりと汗をかいた。オシャレな洋服店の店員は皆おしゃれだった。高身長で、すらりとしており、足が長く、整った顔立ちをした者ばかりだった。きょろきょろと周りを見回すと客も皆すらりとしており、顔立ちの美しい男ばかりだった。彼は身長が著しく低い訳ではなかったが、頭が大きく、顔が平らで、他人には薄い印象を与え、全体的に骨太で、足が短かった。スタイルが悪い、と彼は自分を恥じていた。きらびやかな店内に自分がいるのは如何にも場違いな気がしていた。バッグからハンカチを取り出し、額の汗を拭った。拭っても拭っても汗は吹き出した。
 骨格ばかりはどう努力しても変更の効かないものだった。彼は頭骨を小さく見せるため、筋力トレーニングを行い、体を大きくしようとした。胸や肩の筋肉を発達させたが、爆発的に筋肉量を増やすことなどできなかった。彼はボディビルダーになりたい訳ではなかったのだ。彼はオシャレをしたかった。彼の発達した三角筋は、日本人向けに作られた洋服の肩幅と襟元に悲鳴を上げさせた。大胸筋と広背筋はさほど大きくはなかったが、日本の若い青年にぴったりとフィットする素敵なジャケットの胸囲を裂こうとした。
 彼が店内を徘徊し、商品を物色していると、整った顔立ちの店員が詰め寄ってきた。「よかったらご試着どうぞ。サイズもお出ししますよ」彼は狼狽えて、辺りをキョロキョロと見回し、目の前のジャケットを手に取った。店員は彼のバッグを預かり、ジャケットを彼に着させた。ジャケットは彼の体には合わなかった。店員の視線が彼の額の汗をとらえたことを彼は気づいた。変な人だと思われているかもしれない、と彼は思い、緊張が増した。汗は止まらなかった。呼吸がうまくできなかった。
 客は少なからず緊張するし、挙動不審にもなると店員はわかっている。彼はそう思った。はじめてオシャレをしようと思っても、どうして良いのかわからない、勝手の分からない店に入って緊張するのは当たり前だ。店員は寛容であり、わかってくれているから、遠慮せずに相談するべきだ。
 彼は控えめながらも、「肩が張る感じがします」と感想を述べ、ワンサイズ上のものがないかと聞いた。「確かに“少し”肩が張っている感じがしますね」と彼の肩に手を入れ、ジャケットを力任せに肩の形状に合わせようとして断念した店員は言った。「上のサイズがないか確認して参ります」店員が店舗奥へと消えていくのを見届けると、再びハンカチで額の汗を拭った。店員が戻って来るまで数分かかった。彼は、店員がバックヤードで「こういう客が来ていて、肩幅は全然広く見えないんだけど、なぜか着せるとジャケットの肩が裂けちまいそうだ」と別の店員と談笑している姿を想像し、汗を拭き、また汗を流した。
 店員の持ってきた先ほどよりもワンサイズ大きいジャケットを試着し、やはり肩の辺りが窮屈な気がし、店員に訴えた。店員はジャケットの肩のところに手を入れ、押し込み、ジャケットそのものの形状を変えにかかった。「ほら、さきほどと違って、ぴったりとしていますよ」と言った。そして商品説明を始めるのだった。そのジャケットのデザインは彼の気に入った。しかし、サイズは合っていなかった。もし、1年前の彼だったら、店員の話に洗脳されるようにして、高額なジャケットを買っていたことだろう。彼は1年前の騙され易い彼ではなかった。彼はほんの少しだけ、決める前に考える癖を付けていた。「考えてみます」とそのまま自分の頭の中に浮かんだ言葉を店員に伝えて、店を出た。

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秋、風に吹かれて



 2014年4月にZepp福岡という場所で彼に会った。その彼が今夜ニュースになった。スウェーデンという遠い国の世界的に有名な文学賞を受賞したとのことだった。僕は心の中で「おはようございます」と言った。それから自分が間違えていることに気づいて、また心の中で「おめでとうございます」と言い直した。

 新規公開株式購入に当たり、今日は太宰府天満宮奥にある天開稲荷大明神にお参りに行った。別に資金作りのために賽銭泥棒に行った訳ではない。長い間停滞し、上がる気配のない株を売却(損切り)して資金を確保したので、反社会的で罰当たりな行いなどする必要はなかった。新規公開株の抽選に当選させてくれとお願いしに行ったのだった。邪な願いが叶うはずはないような気がしたが、願わずにはいられなかった。何か願い事がある度に僕はお稲荷さんを頼った。そこはパワースポットとして割と有名な場所だった。ほかにもお参りに来ている人がいた。全員、新規公開株の抽選に当選するために願っているような気がした。運の悪い僕が当選するとは到底思えなかった。それでも当たってほしいと願わずにはいられなかった。当たれ、当たってくれ。喉には手など生えていないのに、喉から手が出るほどIPOに当選したかった。儲けたいと思った。儲けて、いい思いをしたいと思った。神様の力を借りられるものなら、利息なしで借りたかった。僕は10円玉をお稲荷さんに捧げて祈った。友人に話すと「当選するような人間は1,000円くらいは払ってるよ」と言われた。ハッとした。僕は投資をやるには貧乏過ぎた。友人も同じように新規公開株を買って儲けようと画策している人間の一人だった。僕たちは儲けたかった。いい思いをしたかった。

 新規公開株についての議論は白熱した。僕は福岡県に住んでいて、彼は関東に住んでいた。議論はSkypeのメッセージで行われた。ああでもない、こうでもないと話し合われた。僕は妻と『アポロ13』という映画を観ていた。僕はパソコンの画面に集中していたので、映画の内容はほとんど頭に入って来なかった。

「ねえ、今なんて言ってた?誰かが何かに罹って、月に行けなくなったみたいなことを言ってなかった?」と僕は妻に聞いた。スマホを眺めていた妻は「全然見てなかった」と言った。数秒戻せば解決しただろうが、僕にはその気がなかった。再びパソコンに目を向けた。トム・ハンクスとケビン・ベーコンがいたような気がした。「アポロの月面着陸はねつ造のような気がするな」などとパソコンの画面を見ながら、妻に話しかけた。それに対して妻が何か言ったような気がしたが、僕は聞いていなかった。次に妻が僕に話しかけたときには『アポロ13』が終わった後だった。「アポロ13つまらなかった。消した」と妻は言った。「消したんだ」と僕は言い、それ以上何も言わなかった。

 PSVRのニュースがやっていた。妻が「面白そう」と言った。確かに面白そうだった。新規公開株に当選し、初値で売却した時の利益で買ってみてもいいなと思った。僕はいい思いがしたかった。たまには娯楽にお金を使ってみたかった。猫は髪留め用のゴムで遊ぶことが世界で一番好きなようだった。質素なやつだった。僕もそんな質素な人間でありたいと思いながらも、高級なゲーム機器で遊びたいと思ってしまった。欲深い人間だった。欲望が憎かった。でも、やはり新規公開株式に当選したかった。

 お稲荷さん、どうかIPOに当選させてください。
 お稲荷さん、どうかIPOに当選させてください。
 お稲荷さん、どうかIPOに当選させてください。

 僕は祈った。祈りが通じることを願った。風が冷たくなった。

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素晴らしい折りたたみ傘

 妻に夢の話をしたら、他人に夢の話をされることほど退屈なものはないと言われた。確かにその通りかもしれない。しかし、失礼な話ではないか。口下手な夫が一生懸命話をしているのに。まあ所詮は夢の話なのだけれど。

 今日は朝からやる気が起きなかった。掃除をしなければならないのに、全く気力がない。ただ物を片付けて掃除機をかけるだけのことなのに。天気予報では晴れるようだったので洗濯もしなければならなかった。洗濯機に洗濯物を入れて、スイッチを入れた。洗濯物だけは干すのだ。けれども、洗濯機が懸命に働いている最中、僕は眠くて仕方なかった。午前9時頃のことである。少しだけ、と言ってベッドに横になった。
 猫があまりにも気持ちよさげに寝ている。自分だけずるいぞ、君はいいな、好きな時に眠れるのだから。たまにそう言いたくなるし、時には口に出して言うが、猫は何もわかっていない。わかっているのは「ごはん」「食べる」「お腹空いた?」「お留守番」「ねんね」と言った自分の生活にかかわりのある、彼女にとって実に意味のある言葉のみだ。僕の不満の言葉など彼女には通用しない。ただ食べて寝て、遊ぶことができたらいいのだ。でも、彼女がいるお陰で仕事を頑張れる面もある。この子だけは野良猫にはできないと思うのだ。だから、猫はお金を招く。地球上のなによりも完璧なフォルムをした動物。猫。
 僕はその猫の隣でしばし眠りに就く。目覚めると午前11時前だった。洗濯機はすでに活動を停止していた。午後まで寝てしまっていたら、洗濯物は生乾きのニオイを放っていたことだろう。

 午後、妻が仕事から帰宅した。そうめんとにんじんしりしりを作って昼食とした。昼食後すぐに妻は生命保険の見直しのために出掛けて行った。僕はその間にやっと掃除と洗い物を済ませることができた。ひどくやる気の出ない日だった。

 妻が帰って来てから外出した。外出先で折り畳み傘を見て回った。先日夜勤明けの日に電車で居眠りをし、目覚めると最寄り駅に到着しており、慌てて降りた際に折りたたみ傘を車内に置き忘れてしまったのだ。新しいものが欲しいような気がした。一つ、実にいいものを見つけたが、買わなかった。しばらく(長い傘だけで)生活してみて、不便に感じなければ折りたたみ傘を買う必要もないだろう。機能の重複したものは極力買わないようにしているのだ。でも、こうして今思い返してみると「欲しかったなあ・・・」と思うのだ。今までコンビニで買った500円ほどのかなりシケた傘を長く使っていたので、今日見つけた折りたたみ傘は実に素晴らしかった。コンパクトだが、広げてみたら大きくて、これなら濡れない、濡れるはずがない、と思えた。500円傘に比べたら丈夫で長持ちしそうだ。買おうかなあ・・・

 1週間考えてみて、まだ欲しかったら買ってしまうかもしれない。やはり通勤用のリュックに忍ばせて、突然の雨が降った時にはいつでも取り出せるようにしておきたい。毎日天気予報を見て、雨が降りそうな時は普通の長い傘を持って出かけるのもいいが、忘れることもあるに違いない。2日くらいで折りたたみ傘のことなど忘れそうだが、もしかすると意外にしつこく語るかもしれない。というか、もし次にここで折りたたみ傘について触れることがあったとしたら、もうすでに買った後かもしれない。

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風の強い日

 昨日、猫の家の下に湯たんぽを置いてやった意味はほとんどなかった。僕は一晩中足に重みを感じながら寝ることになってしまった。猫も「より暖かな方」へと移動する。人間のベッドの方が暖かだったのだろう。自分の家で眠れ、とは言えない。その猫も今日一日中コタツの中にいる。相当寒いのだろう。

 風の音と、何かが転がって行く音がする。とにかく風が強い。時折雪が舞い落ちてくる。朝から外に出ようと思っていたのだが、コタツでのんびりしていると瞬く間に時間が経過していき、やっと外出する決心をしたのが15時のことだった。クリスマスケーキを予約しなければならなかったからだ。本来であれば仕事が休みのこの日に外に出ようなどとは考えない。ずっとコタツで丸くなっていたいのだ。猫も丸くなっている。僕も丸くなりたい。
 昨年は確か20日からケーキを買うかどうか迷い始めて、コンビニで勇気を持って「予約したい」と伝えたのが21~23日のどれかだった。もちろん予約は終了していた。遅すぎたのだ。親切なコンビニ店員さんが自分用か何かにとっていたケーキを譲ってくれた。今年は余裕を持って行動しなければならなかった。
 某コンビニに行き、勇気を出して、店員に声を掛けた。「すみません。クリスマスケーキの予約をしたいのですが」と。この短いセリフに、噛みはしないかと不安になりつつ、表情に気を付けながら、やはりどもり気味になってやっと言葉を吐き出した。なんとか予約し、外に出た瞬間に財布の開け方をミスって地面に小銭をぶちまけた。小銭がアスファルトに落ちて散らばっていく様は、僕自身の散財を暗示しているかのようだった。不吉だった。経済的に厳しいことは確かだが。にも拘わらずクリスマスケーキを予約するのはやはり矛盾しているだろうか。

 それにしても寒い。手足が凍てついて動かない。

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失われた若さ・怒れる男たち

 ソフトバンクホークスの優勝パレードがあり、博多の街は賑わっていたことだろう。僕は博多から少し離れた、とあるショッピングモールのとある書店で中古のジュール・ヴェルヌの小説を86円という安さで手に入れていた。それは『動く人工島』という本で、タイトルからして面白そうだ(読まずに本棚で腐るかもしれないが)。きっと内容も面白いはずだ。いや、面白くないはずがない。絶対に面白い。



 ユニクロに入ると、僕はあるものを発見し、妻の手を引いて、その場所へと導いた。すると妻が「ダッフルはやめた方がいい。もう30も過ぎとるし」と言った。危険極まりなく、30歳を過ぎたら、装備することができなくなってしまう儚いダッフルコートを背にして、僕はまた去るしかなかった。もう過去のものになってしまったのか・・・。
 僕は中学生の頃、確かにダッフルコートを着ていた。それは冬に学校に着て行く以外には使わなかった。僕は雪道をジャージ姿にダッフルコートを羽織って疾走したものだ。
 大雪が降って、学校が休みになった事がある。学校に雪かきに来てくれという連絡が回ってきた。僕は家が遠かったが、全校生徒が参加するものと思い込んで、中学校へ行ったのだ。すると部活の顧問が「あれ、お前なんで来ているんだ?」と僕に言うのだった。周りの生徒は皆、家が近い者たちで編成されており、少しでも家が離れている者の姿はなかった。僕よりも家が近い友人の姿もなかった(やつはきっと家でぬくぬくと寝ていたことだろう。いっつも寝坊するやつだったからなあ)。「なぜ、みんな来ていないんですか?みんな雪かきがあることを知らないのかなあ」と言いたい気がしたが、僕は雪かきを開始した。
 帰りの雪道に時折足をとられながら、僕は家路を急いだ。帰宅後、凄まじい悪寒に見舞われて、僕はベッドにもぐりこんだ。その夜、発熱して寝込んだ。ダッフルコートの前を開けて走っていたせいかもしれない。確かに危険極まりないものだったのかもしれない。
 そして、思うにダッフルコートとは若さの特権であったようにも思う。もう取り返しがつかないのだ。今、着たいといくら望んでも、妻に「やめた方がいい」と言われるだけなのだ。僕は自分から若さが失われてしまっていることを悲しく思った。しかし、過ぎ去った事をいつまでも嘆いていて、何の得になろう?(わかっているのだ、前を向かねばならぬことは。しかし、いつまでもくよくよしてしまうものなんです)

 家に帰り、入浴時に読む本を探していた。昨日、村上春樹氏の『辺境』を読み終えたばかりだから。次も出来れば旅行記なんかを読みたいと思い、本棚を漁ってみるのだが『存在と時間』とか、『純粋理性批判』とか、そんな苦しそうな本ばかりが出てきた。例のごとく「後で読んでみよう」と軽々しく買ったものが(買った時は軽々しいとかそんな事は考えておらず、とても真剣に悩んでいたと思う)、とても重々しく本棚の中に腕組みをして、眉間にシワを寄せて順番を待っているのだ。僕は手に取った瞬間に本棚に戻す。ハイデッガーやカントら多くの哲学者たちが勇んで立ち上がった瞬間に頭を抑え付けられて、憤慨しながら、再び席に着いていく。「なぜ買ったんだ?」と彼らは怒っている。『十二人の怒れる男たち』でなく、もはや僕は何十、何百、何兆の男たちを怒らせてしまったことだろう。そんなことなど実はどうでもよかった。できるだけ色々な本を集めてみようと思っていたけれど、内容がかなり偏っていたことを反省すべきだ。一時期、哲学に興味があって買ったのはいいが、一冊も読破できていない。いや、一行も読んでいない。買った瞬間に腐った!僕は怒れる男たちに睨まれつつも、次は旅行記を中心に本を探して行こうと思っている。

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たびびと

Author:たびびと
こんにちは、たびびとです。
ようこそ、ぼくのブログへ。

介護職員のバイトをしています。
時間がいっぱいあるので、ブログ始めてみました!

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